千里眼 マジシャンの少女

休暇中の岬美由紀は吹雪で山頂に取り残された遭難者の救出に向かうが、現場に人影はなく雪崩に呑み込まれる。折しも政府は都知事の提唱したカジノ構想を実現すべくお台場に巨大な施設を建設中だった。政府高官や警察官僚が招かれたオープニングセレモニーの日、数十人を超す武装勢力が施設を占拠。VIPを人質に四百億円と原潜引き渡しを政府に要求した。巨額のカネが動くカジノ計画の裏に日本を震感させる策謀が。(Amazon.co.jp
ハードカバー『千里眼のマジシャン』の文庫化。といっても内容はかなり手を入れられた「バージョンアップ版」だ。

 以前、 『イリュージョン:マジシャン第2幕』のレビューで「松岡氏の前作 『千里眼のマジシャン』が筆者的には今ひとつの出来で、少しがっかりしていたのだが、本作では千里眼のマジシャンが無かったこと(作中において勝手に書かれた荒唐無稽な小説)になっているのがなんとなくうれしかった。」と書いたが、本作は大きなストーリーの流れはそのままながら、こうした筆者の不満を払拭してくれるような内容になっている。

 『千里眼のマジシャン』との違いは、松岡氏のサイトでは

親本のハードカバー『千里眼のマジシャン』では番外編扱いだが、文庫化された本作ではシリーズに正式に組み込まれている。
とされ、
1)舛城が登場しない
2)沙希がFISMで優勝していない
3)北朝鮮が敵ではない
4)シリーズのお約束どおり殺人を犯さない岬美由紀のヒューマニズムも貫かれる
5)親本ではテーマパークとして存続したカジノ施設が、現実に沿う形に改められている
6)沙希が『イリュージョン』の椎橋彬に先駆けて横浜のマジックショップ「ジーニー」でバイトしていた
といった点が言及されている。
 最も大きいのは4)で、筆者が『千里眼のマジシャン』に対して抱いた不満は主にこの点であった。本作では、これでもかというくらい、ちょっと無理があるんじゃないかというくらい極力人が死なないように描かれており、松岡氏の意思が強く伝わってくる。

 これらの変更に伴い、エピソードの追加や細かい設定の変更、表現の変更などが細かに加えられている。千里眼シリーズの中に組み込まれるために整合性が取れた反面、作品としての無理が若干生じているように感じたことも、言及しておきたい。
 1)の舛城の代わりに藍河という元刑事が登場。そのため藍河、沙希のとる行動に対する理由付けに少し無理があるか、と思った。『マジシャン』での舛城と沙希の関係を踏まえた上で読んでいた部分だったからそう感じたのだと思う。
 また、本作の中ではちょっとした仕掛けがあり、『千里眼のマジシャン』のほうではその仕掛けが読者に対して機能するような表現になっているのに対し、『マジシャンの少女』ではすぐに読み解けるような表現に変更されている。(作品冒頭に追加されたエピソードからも「仕掛け」が予想できる)この部分はもっと難解なままでもよかったかなぁ、と思った。

 とはいえ、作品自体が面白かったのは間違いない。謎解きと活劇と癒しの複合エンターテインメント。話題のアイテムもさりげなく登場させ、シリーズ読者へのサービスも忘れない。社会への風刺も利かせてあるので、ちょうど今、政治のほうも騒がしいことだし(2005年8月)、政治家の皆さんに読ませてあげたいものである。
 意外にうれしかったのが永幡の活躍。がんばれおじさん、と応援してしまった(笑

 筆者はまだあのお台場の風呂に行ったことが無いのだが、本作読了後、ぜひ行きたくなった。

                        1. +

千里眼 マジシャンの少女
著者: 松岡圭祐
評価: ★★★★