千里眼 トランス・オブ・ウォー(文庫版)

混乱のつづくイラクでまたしても発生した日本人人質事件。四名の人質のPTSDを考慮した政府は現地に臨床心理士を派遣。岬美由紀、二八歳。彼女が戦地に向かった理由は、その過去にあった…。自衛隊幹部候補生時代の想像を絶する訓練、そして女性自衛官初の戦闘機パイロットに―。その栄誉さえも捨て、臨床心理士に転向した彼女の信念が戦地へ向かわせたのだ。「信じて。戦争はかならず止められる」武装勢力の衝突の渦中で取り残された美由紀は、銃口を目の前にそう説くが。(Yahoo!ブックス

 松岡圭祐氏の人気シリーズである千里眼シリーズ『千里眼 トランス・オブ・ウォー』の文庫版。
 松岡圭祐の著作は、文庫版にあたって加筆、改稿がなされることが多い。作品の完成度を上げる、シリーズとしての展開や設定にあわせて、といったことからこのようなことがされるようである。京極夏彦の作品が、文庫化に当たってその体裁に合わせた言い回しの修正がなされるようなものとは意味合いが異なる。(京極作品は、文の切れ目がページをまたがないのだ。)もともと、筆者は、本はハードカバーが好きで、どちらを買うかというとハードカバーを選んでいるのだが、このように改稿がされるとどちらも読まなくてはということになる。以前は同じ作品なのにストーリーを変えるなんて!と思っていたのだが、松岡作品の改稿に接して考え方が変わってきた。確かに面白くなっているからだ。もともとの作品を貶めるということではなく、次作に向けての仕掛けが盛り込まれていたり、別の終わり方が提示されていたり。
 このレビューを読まれた方も一度作品の読み比べをされてみてはいかがだろうか。

 さて、本作『千里眼 トランス・オブ・ウォー』では、最大の改稿は『蒼い瞳とニュアージュ』の主人公である一ノ瀬恵梨香と岬美由紀の関わりが描かれているところであろう。一ノ瀬恵梨香がなぜ、カウンセラーになったのか、趣味のバイオリンの発端は?など、松岡作品の読者には次作に期待せずにはいられない要素が盛り込まれた。また、このことでハードカバー版で描かれた美由紀がイーグルドライバーになった理由よりも、より美由紀らしいと思える筋書きになっているように思う。

 ストーリー全体に対するレビューはハードカバー版のレビューにまかせて、最後にもうひとつネタを。

 以前、『蒼い瞳とニュアージュ』のレビューで一ノ瀬恵梨香のモデルは元モーニング娘。矢口真里さんだろうか、と書いたのだが、ネット上でもそこそこ話題になったらしく、著者のHPの解説の中にコメントがされている。蒼い瞳とニュアージュ

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千里眼 トランス・オブ・ウォー(文庫版)
著者: 松岡圭祐
評価: ★★★★