CURE

 本当に怖い、萩原の切れた演技もさることながら、ラストシーンで役所がおいしそうに食事を取っているところ。そうなるに至った経緯を考えると、映画を見た人なら薄ら寒くなることは間違いないだろう。

 現代社会に蔓延している”ストレス”というものの恐ろしさがここにあるのではないだろうか。われわれはさまざまなところでストレスを感じている。自分の中の"常識"が通じないときもそのひとつである。いま、社会の中で普通に生活している人の中にも、ある状況を強迫観念のように避ける人がいることに気づいたことはないだろうか?

 たとえば、"絶対に自分の間違いを認めない人"や"自分のみっともない姿を見せたくない人”などはみなさんの周りにも一人や二人といわず、結構いるのではないだろうか。こうした人々は往々にして「自分の非を認めたり、失敗を見せることによって周囲から見放されてしまうのではないか」ということに恐怖している(意識的・無意識的問わずに)。だから、自分の非を指摘する人や知られてしまった人を攻撃することで自己保身を行うのである。

 普通に考えて、ちょっとした間違いや失敗は誰にでもありうることであり、その一瞬笑うことや怒ることがあっても、すぐに忘れてしまうことがほとんどである。しかし、彼らにとって「失敗を犯す」=「見捨てられる」であり、これが常識になってしまっているのである。そこで「見捨てられない方法」=「ミスの隠蔽・他人への転嫁」という思考が彼らを壊れさせる。「ミスの隠蔽・他人への転嫁」が良くないと彼らも理解しているが、「見捨てられる」事への恐怖,そこからくるストレスから逃れる為にそういった思考が"飛んで"しまうわけだ。

 この映画の中で、”彼”は独特な話術で相手の心を”壊し”、指令を刷り込む。普通の会話が成り立たないことのストレスはとても大きい。これを一気にたたきつけられれば本当に”壊せるのではないか”と思う。

 そして、ラストシーン。主人公が重荷から開放され、ストレスのなくなった姿。彼はいかにしてストレスを消去したのだろうか?

                        1. +

CURE
監督: 黒沢清
出演: 役所広司萩原聖人うじきつよし
評価: ★★★★

※本レビューは、サイト以降後の2004年08月02日に一度アップされたものです。MovableType不具合対応のため再掲しました。