そのときは彼によろしく


「ねえ、帰り道が分からなくて泣いているんでしょ?」「この先が、あなたの帰る場所よ。ひとりで行ける?」「さよなら。もう、ここに戻って来ちゃ駄目よ」ぼくらはばらばらではなく、みんな繋がっている。誰もが誰かと誰かの触媒であり、世の中は様々な化学反応に満ちている。それがきっと生きているってことなんだと思う。それは、磁力や重力なんかよりもはるかに強い力だ。それさえあれば、あの空の向こうにいる誰かとだって私たちは結びつくことができる。小さな人生の大きな幸福の物語。(セブンアンドワイ

いま、会いにゆきます』の市川拓司作品。『いま、会いにゆきます』のときには、もうひとつこなれていない、といような印象を受けたのだが、設定も影響してなのか、早く続きが読みたいという感じで読み進めることが出来た。

 主人公とヒロイン、親友の三人をはじめとして主要な登場人物がみな相手のことを思って生きている。そして押し付けがましくならずに自分の中でその感情を消化している。人を思いやる姿勢の心地よさがじわりじわりと感じられる作品。

 ファンタジーの要素が入りながらも、するりと胸に落ちる感覚とともに受け入れることが出来る。

 タイトルである「そのときは彼によろしく」は主要な3人ではなく、主人公の父親が、主人公に向けて発せられた言葉であり、伝えられるのもまた主要な3人とは違う人物によって、である。しかしこの言葉にこめられたメッセージはまさにこの作品の軸となる感情なのである。

 友人、恋人、親子。それぞれに関係は違っていても人と人がつながるという意味において、これらの強く太い絆を改めて見つめなおすことが出来るのが『そのときは彼によろしく』だ。

まもなく映画化されるということで、楽しみにしたい。

                        1. +

そのときは彼によろしく
原作: 市川拓司
評価: ★★★★