暗いところで待ち合わせ

 乙一の良作「暗いところで待ち合わせ」の映画化。

3年前の事故が原因で両目の視力を失くし、実の父親も病気で亡くしたミチル(田中麗奈)。世間から取り残されたように1人静かに暮らしていたある日、ミチルの家の近くにある駅のホームで殺人事件が起こる。やがて、容疑者の青年アキヒロ(チェン・ボーリン)がミチルの家に逃げ込み、奇妙な同居生活が始まってしまい……。 (Yahoo!映画

 映像化するのが少し難しいかなとも思える原作を映画としても良作に仕上げていると思う。
映画ではアキヒロが日中のハーフという設定で、周囲になじめないアキヒロの苦悩を判りやすく観客に納得させてくれる。視力を失ったミチルと周囲になじめないアキヒロ。心を閉ざしているふたりがなんとも不思議なシチュエーションで出会い、徐々に心を通わせていく様が丁寧に描かれている。

 物理的にはいきなり接近した状態でふたりの関係は始まるが、心はとても遠いところがスタート。何しろミチルは存在を認知していないのだ。アキヒロにしてもその存在を隠すというところから始まっている。

 心を閉ざしてしまっている状態は、傷付くことがなくて、楽なようだが、その実そのほかのいろいろな感情も放棄することになっている。多かれ少なかれ我々にも経験があるから、二人の姿には自らを重ねて見る人も多いだろう。観客の視線が優しく暖かなものになっていることに気づく。

 ダイニングの戸棚の上の物を取ろうとしたミチルが椅子から落ち、その上に落下した土鍋をとっさにアキヒロが受け止めて助ける、という場面があり、これでミチルがアキヒロの存在を確信する。ここから二人の距離が縮まり、幼馴染の家に出かけるミチルをアキヒロがフォローするシーンなどもよいのだが、何気なくダイニングの場面で戸棚の上の荷物が片付けられていたりして、丁寧に作られているなと思った。
 ついモノローグに走ってしまいそうなシチュエーションをあえてモノローグを廃して描ききった監督の演出に拍手。

 このところ日本での露出が多くなっているチェン・ボーリンは荒々しさと優しさを誠実に演じていて好感の持てる存在感。盲目の女性を演じた田中麗奈も飾り気をなくして地味な様子、盲目の状態で弾くピアノなど上手い、と思わせてくれた。

 井川遙の役どころは本当にはまるなぁ。

                        1. +

暗いところで待ち合わせ
監督: 天願大介
出演: 田中麗奈チェン・ボーリン井川遥宮地真緒佐野史郎波岡一喜岸部一徳 、佐藤浩市
評価: ★★★★