ベルンの奇蹟

解説: サッカーのワールドカップを通して父と子の絆と再生を描くファンタジック・ムービー。元ブンデス・リーガーのサッカー選手だったゼーンケ・ヴォルトマンが監督・プロデューサー・脚本を担当。サッカーシーンは迫力のある仕上がりになっている。父と息子を演じたペーター・ローマイヤーとルーイ・クラムロートは本当の親子だけにそのリアルな演技に注目だ。

ストーリー: 1954年夏、西ドイツ。第二次世界大戦でソ連軍に捕らえられていた父・リヒャルト(ペーター・ローマイヤー)は帰還するが、家族の関係はギクシャクし、幸せのかけらは微塵(みじん)も感じられなかった……。(Yahoo!ムービー


これはいい映画だ。

 史実である「ベルンの奇蹟」と呼ばれる出来事を描いた映画だが、物語の大きなもうひとつの核に親子の絆の再生を据えている。12年の苦しみの末戻った父親は上手く家族の下に「戻る」ことができない。心に抱えた傷を家族にさらすこともできず、子供たちとなかなか上手く向き合えない姿は、たとえ戦争に行っていなくても、世の父親たちは共感できるだろう。大人たちは大変なのだ。
 そして子供たちもそんな大人たちにまっすぐに視線を投げかけ、傷ついてしまう。
 しかしこの家族はお互いを愛し支えあっているというのが自然に感じられ、幸せいっぱいの描写などなかなか登場しないのに、筆者には暖かなものが感じられた。

 随所にちりばめられた印象的な台詞や役者たちの演技も良い。厳しくも暖かく選手たちを率いる監督や、その監督の気持ちを理解する選手の姿も素敵な「家族」に感じられたし、そんな監督さえも一喝してしまうホテルの清掃員のおばあちゃん。傷ついたわが子と父親の間に立ち、愛情を持って橋渡しをする母親。子供のために頑張る父親と父のために精一杯の言葉をかける息子・・・
印象的な場面が実に多かった。

 クライマックスの試合以外は試合実況に合わせるかのように子供たちが遊んでいるサッカーで描かれたりして、映像的にも美しい。スポーツを描いた映画というのはどうしてもしょぼくなりがちなのだが、さすが元プロサッカー選手が監督をしているだけあって、細かな部分の描写は正確に描かれているし、起用されている俳優たちもユースチームにいた人などで構成されていて「キツさ」を感じさせることなくストーリーを楽しむことができた。
 "supported by adidas”としょっぱなからアピールしているとおり、「奇蹟」に一役買ったアディダスのエピソードもしっかり登場(ストーリーに違和感なく描かれていたので嫌味な感じは無い)。筆者が中学生の頃、サッカー部内で取替え式スタッドのスパイクが流行ったのを思い出す。

 劇場(日比谷シャンテ)には映画で使用されたユニフォーム、スパイク、ボールが最新式の用具と一緒に展示されており、こちらも楽しめた。

 映画の最後に実際の実況音声を聞くことができるので、エンドロールも最後まで見よう。

ゼーンケ・ヴォルトマン監督インタビュー

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ベルンの奇蹟
監督: ゼーンケ・ヴォルトマン
出演: ルーイ・クラムロート 、ペーター・ローマイヤー 、ヨハンナ・ガストドルフ 、ミルコ・ラング 、ビルテ・ヴォルター
評価: ★★★★