千里眼背徳のシンデレラ

元航空自衛官にして女性初のF15パイロット、現在は臨床心理士となり、その動体視力と観察眼、心理学の知識を併せ持ち、"千里眼"の異名をとるほどにすべてを見抜く、戦後最強のヒロインが最大級の謎に挑む。耐震強度偽装をめぐる事件に仕掛けられた罠を看破したとき、美由紀は新たな陰謀の種を発見した。そこにはかつて、日本を震撼させた天才女テロリスト友里佐知子の後継者、鬼芭阿諛子の壮絶な復讐が待っていた―。最強のヒロイン岬美由紀が、ついに千里眼の宿命と対峙!(Amazon.co.jp)

 本作は美由紀のかつての師、そして宿敵友里佐知子の生涯を描き、その娘、鬼芭阿諛子との対峙を描く。

 「日本列島が海に沈んで、もう四日が過ぎた。」
衝撃的な書き出しで始まる本書は、松岡ワールド炸裂のシリーズ最新作(2006年5月)。本作でも絶妙に世事を取り込みかつ秀逸なストーリー展開を見せる。
日本沈没」を体験するのは耐震強度偽装疑惑の当事者。
かつて3億円事件を成功させたのは友里佐知子であり、その事実を世間に無理なくごまかすための手段として「犯人は少女」という作品が書かれる。もちろんこれは「初恋」。

 幅広く張り巡らされた伏線が、ひとつに収斂していくカタルシス。この快感は本作でも健在。

 しかし、本作でもっとも大事なテーマは、自分の信念について。千里眼シリーズで宿敵として描かれてきた狂気のテロリスト友里佐知子がもともと理想に燃え、正しい道を歩もうとがむしゃらに生きる姿をみて、本当に紙一重で人がどのような存在になるかが変わってしまうということが痛々しく描かれている。
 かつての友里の姿はむしろ物語の主人公として応援しようとさえ思わされるのだが、徐々に、本当に少しずつ迷宮へと迷い込んでしまい、気が付くと後戻りできなくなっている姿は、わが身を振り返って恐ろしくなる。

 シリーズで謎を残していたメフィスト・コンサルティング、ダビデ、マリオン・ベロガニア、前頭葉摘出手術、北朝鮮の心理学手法・・・さまざまな謎が鮮やかにつながり、大きな流れを形成していく様は圧巻。

本作より岬のイメージキャラクターが釈由美子に。

小学館「千里眼を読み解く」★オススメ

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千里眼背徳のシンデレラ
原作: 松岡 圭祐
評価: ★★★★★