初恋

1968年12月10日。
東京・府中。
雷雨の朝、白いオートバイ。
18歳の少女。
あの「三億円事件」の秘密の扉が、今静かに開かれる。 (amazon)

 三億円事件の犯人が実は18歳の女の子だったという設定を軸にした恋愛小説。まもなく宮崎あおい主演で映画化される。

 主人公=著者という体で書かれている。

 恋愛小説と書いたが、その表現は決して派手なものではない。静かに、本人も気づかないうちにそれは始まり、思いは高まっていく。主人公を取り巻く環境はよくも悪くもめまぐるしい変化を起こしていて、それは日本の社会全体を巻き込んだ大きなものから主人公の周りのちいさな舞台までさまざまだ。そんな中、日本中を騒がせた事件に図らずも巻き込まれていく主人公。

 物語の後半で明かされる秘密や、登場人物たちの「その後」の姿がとてもあっさりとした描写で書かれており、筆者としては若干肩透かしな印象を持った。いわゆるその他大勢に関してならそれでもいい。主人公にとっての重さがその程度であると知れるからだ。だが、兄や恋人に対する思いはもっと描いてもよかったのでは?それとも年老いた主人公の中ではすべて整理され、「過去」になってしまっているということなのか。

 本作では、余計な描写を省いた表現が多く、読んでいる側の集中度やそのときの心情が強く影響するかもしれない。どれだけ入り込んで登場人物たちの「心」を聞き取れるかによって、作品~受ける印象も評価も違うものになるのだろう。

                        1. +

初恋
原作: 中原 みすず
評価: ★★★