東京大学物語

函館向陽高校3年生の村上直樹(田中圭)は、学年でトップクラスの成績を誇り、東大合格を目指して勉強中の身だが、ある日、好意を抱いていた同じ高校の水野遥(三津谷葉子)に告白したことで人生が変わってしまう。(Yahoo!ムービー

 原作者が監督を務めるというのは、映画のための原作でない場合はあまり無いパターンのような気がする。監督の作品に対する思い入れが伝わる作品。単行本で30巻以上にわたる原作の1から10巻を元にと言うことだが、それでもかなり長い。原作を読んでいない人には展開が忙しくて話がよくわからないだろう。筆者は原作を読んでいたので、その視点でレビューを書きたいと思う。

 原作では村上が主人公として描かれていたが、映画は遥が主人公として描かれている。遥の歩んできた人生を振り返るかのように、紡がれる映像の中には絶えず彼女が心の中で自身に言い聞かせてきた台詞が重ねられ、なんとも切なく観客の前に展開される。原作の中でものすごい量の村上の思考を「読んで」きた我々が改めて遥の視線で彼の行動を目の当たりにしたとき、大なり小なり彼に共感した自分の愚かしさに自己嫌悪を感じてしまったりする。(注:筆者があそこまでのことをしていたわけではない。念のため(笑 )

 物語の終盤、意外な展開が待っている。この手の展開は決して珍しいわけでは無いのに、なぜだか筆者の心には妙に引っかかった。認めたくは無いがそのとおりであろうその後と、あまりに切ないラスト。本人がそうは思っていないといっているのが救いだが、意外な作品に心を動かされた。

 他者に対し、どこまで自分を出していいのか?どこまで自分を受け入れてもらえるのか?という悩みは誰もが一度は通る道では無いだろうか。気づけば他人の設定した価値観ですべて評価されてしまい、それが絶対的な基準であるかのような錯覚を抱きがちな現代の日本では、本来の自分自身を見失っていることになかなか気づくことができない。そんなもどかしさを思い出させる話である。

 たがいに、相手の前では自分を偽らないと約束し、そのためにかえって溝を作ってしまった二人の姿が見ていてつらかった。

 この映画を踏まえて原作をもう一度読んだら、また違った見え方がするかもしれない。

                        1. +

東京大学物語
監督: 江川達也
出演: 三津谷葉子田中圭波岡一喜範田紗々 、不二子
評価: ★★★