マジシャン


「目の前でカネが倍になる」。参考人らが口を揃えてこう証言する奇妙な詐欺事件が多発。事件を追う警視庁捜査二課の警部補・舛城徹の前に、マジシャンを志す一人の少女が現れる。その少女が語ったカネが倍に増えるトリックとは?警視庁に通報される金融関連詐欺の中には、奇術詐欺的なトリックを使ったものも少なくないという。その驚くべき手口とは?(Amazon.co.jp)

文庫本で再読したのでレビューを。

 著者の松岡圭祐といえば『千里眼』シリーズで有名であるが、もともと『煙 』や『水の通う回路 』などミステリ小説を何作も著している作家である。よく練られたストーリーと著者の持ち味であるリーダビリティ、登場人物に対する愛情のある扱いに、本作もすがすがしい読後感を持った。

 大がかりな詐欺事件を追うという大きなストーリーの流れ、これ自体もマジックという一般にはなぞの世界の話とあいまってかなり面白い仕掛けになっているのだが、そこは松岡作品。しっかりと登場人物の姿も描かれている。
 本作で登場するマジシャン里見沙希と警視庁捜査二課の舛城との心の交流とそれぞれの人間的に成長していく姿は、一連の松岡作品のなかで他の登場人物たちの成長する姿と時に交わり、時にそれぞれの道を歩みながら大きな物語を紡いでいる。単に一直線に成長していくのではなく、後戻りしたり、失敗したり、さまざまな葛藤を経ていく姿が読者にたいして、登場人物たちがリアルに迫ってくるような感覚を起こさせるのではないかと思うのだ。

 筆者は本作をはじめに読んだあと思わずバニッシュの練習をしてしまった(笑。もちろん上手くなどできないのだけれど。

                        1. +

マジシャン
著者: 松岡 圭祐
評価: ★★★★

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