四日間の奇蹟

ある事故に遭遇して指を失ったピアニスト、如月敬輔は、その事故で両親を亡くした少女、千織の保護者の役割をつとめることになる。彼女は脳に障害を負っているが、一度聴いただけの曲をピアノで完璧に再現できるという特殊な音楽的才能の持ち主でもあった。二人は依頼に応じて各地を巡り、千織のピアノを人々に聴かせる日々を過ごしていたが、医師の薦めによって山奥にある診療所を訪れた敬輔は、千織とともにそこに滞在することを決意する。そこには11年ぶりに再会した高校時代の後輩、岩村真理子が勤めていた。(宝島社)

このミステリーがすごい!』大賞の金賞受賞作なのだが、あまりミステリーという感じではなく、ファンタジーだ。

 最初は千織がメインになる話なのかと思ったが、実際は違っていた。この、「実は・・・」の主役であるところの人物に起こる奇蹟、そのおかげで、千織や敬輔にも奇蹟がおこる。それほどたいしたことが起こるわけでもない前半をそれでも読ませてしまう著者の筆力はすごいと思った。
 設定が他の作品に似ているとか言う話もあるが、設定だけなら実にいろいろな作品がお互いに似た作品を抱えているわけで、小さなジャンルわけであると考えてもいいのかなと思う。

 人は誰しもさまざまな悩みやコンプレックスを抱えて生きているが、それは基本的に個人の胸の中に持っているものである。そのためともすれば悩みを抱えているのが自分ひとりだけであるような感覚にとらわれてしまうこととなる。こうした悩みと向き合い乗り越える一歩を踏み出すためのヒント、助けとなる要素がこの本には含まれているように思う。

 千織には入れ物としてではなく、もっと活躍してほしかった。

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四日間の奇蹟
著者: 浅倉 卓弥
評価: ★★★

映画『四日間の奇蹟』レビュー