イリュージョン:マジシャン第2幕

 シリーズ前作の「マジシャン」では、さまざまなトリック・マジックのテクニックなどを巧みに使ったミステリーの中で里見沙希という少女の成長を描いていたが、本作では傍目にはまあ普通で、その実不幸な家庭に育った少年が不器用に社会とかかわろうともがき、苦しみ、成長する姿が描かれている。

 自分の憧れや理想を夢想して浸ることって、中学生くらいのころには一度は経験があるではないだろうか。そして現実にぶつかりながら学び、成長していく。主人公である少年は自分のマジックの才能のために誤ったかかわり方をしてしまう。周りの誰もがそうであったように自分自身も欺かれ、現実が見えなくなっていたとき、同じように幼いころから否応無く社会に接し、苦しんできた少女を知る舛城だけは少年の本当の姿を見ることができたのである。

 松岡圭祐氏の前作 「千里眼のマジシャン」が筆者的には今ひとつの出来で、少しがっかりしていたのだが、本作では千里眼のマジシャンが無かったこと(作中において勝手に書かれた荒唐無稽な小説)になっているのがなんとなくうれしかった。もしかしたら世間の評判か、松岡圭祐氏自身もそう思ったのかもしれない。千里眼シリーズは、現実世界と細かいリンクを張ることで読者をクスリとさせるのがひとつの味になっているが、マジシャンシリーズは独自路線で行ったほうが良いものが書けると感じたのではないだろうか。

 実際、この作品はとても良かった。
著者本来の愛情に満ちた視線がそこかしこに感じられる。厳しい現実に登場人物を立ち向かわせるが、そこにあるのは失望ではない。絶望は死に至る病であるとキルケゴールは言ったが、松岡圭祐氏は希望を失わない。読者に向けて常にエールを送っている。そんな気がする。

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イリュージョン:マジシャン第2幕
著者: 松岡圭祐
評価: ★★★★