夕凪の街 桜の国

 広島原爆投下13年後を生きた女性と現代を生きる女性。二人の目を通して描く、「原爆」。

昭和33年広島、皆実(麻生久美子)は同僚の打越(吉沢悠)から求愛されるが、彼女は被爆した心の傷と、自分が生き残った罪悪感に苦しんでいた。やがて、皆実に原爆症の症状が現れ始める。半世紀後、皆実の弟の旭(堺正章)は家族に黙って広島へ向い、父を心配した七波(田中麗奈)は、後を追う内に家族のルーツを見つめ直す。(Yahoo!映画
「13年後」の主演は、麻生久美子。「現在」を田中麗奈。徐々に過去のものとしてその記憶が薄れつつあるような「原爆」、そして「戦争」。しかし現在を生きる人の人生の中にも、なおその暗い影はちらつき、「原爆後」にも懸命に生きた人の人生が存在する。

 被爆した皆実は、目の前で起きた原爆の惨状や妹の死をずっとその胸に抱えて生きてきた。「自分は生きていていいのか?」「自分は幸せになっていいのか?」皆実は言う。「自分は死んでしまえと思われた人間だ」「私が死んだら、原爆を落とした人は喜ぶのだろうか『やった!また一人死んだぞと』」
「原爆は落ちたんじゃない、落とされたのだ」そう弟に語る皆実の言葉は「歴史上の出来事」ではない、当事者の言葉を代弁した強さを持っている。
 「原爆はしようがなかった」のか? これを観てもう一度考えてほしい。

 現代。疎開していて被爆は免れた皆実の弟、旭だが、被爆した女性との間に子を設け、その娘は28歳になって現在を生きていた。彼女はふらりと広島へ旅立った父を追って広島の地を巡るうち、「原爆」を知っていく。そして彼女の身近にあった原爆の影を知ることになる。

 上手く伝わらないと、アメリカに対する悪感情が起きかねない語り口になりそうなぎりぎりの線かもしれない。特に皆実の言動は当事者としての発言であり、彼女自身が何かをしたわけでもないのに人としての尊厳を傷つけられたのだから、その表現は厳しいものだ。
 しかしこの作品が言いたいことは命の尊さであり、生きることの輝きなのだろう。時を越え、受け継がれていく髪飾りが命の継続性と「今を生きる」事の大切さを伝えている、そう感じた。

                        1. +

夕凪の街 桜の国
監督: 佐々部清
出演: 田中麗奈麻生久美子藤村志保堺正章 、吉沢悠 、中越典子
評価: ★★★