ダーウィンの悪夢

半世紀ほど前、タンザニアヴィクトリア湖に何者かが外来魚ナイルパーチを放流する。その後、この肉食の巨大魚は増え続け、湖畔にはこの魚を加工して海外に輸出する一大魚産業が誕生する。セルゲイら旧ソ連からやって来るパイロットは、一度に55トンもの魚を飛行機で運び、彼らを相手にエリザたち町の女性は売春で金を稼ぐ。(Yahoo!映画

 遠いアフリカの話でありながら、実は我々のごく身近に起きている話。自分の生きるこの世界で起きていることだと感じることが出来る恐ろしい物語だ。

 ごく小さなきっかけが、めぐりめぐって世界規模の問題へと発展していく様は、自らの行いに改めて目を向けるきっかけとしては十分すぎる衝撃度。

 そこに映し出される映像の刺激もさることながら、当事者の一人一人がその流れに参加している意識がなく、それぞれに理を持って行動しているところに空恐ろしいものを感じる。ミクロの視点では一概に過ちであると言い切れない行動をしている人たちがマクロの視点では恐ろしい負のスパイラルの一端を担っているのだ。もちろん売春など「良くない」といいきってもいいような行いも含まれているのに、スパイラルの一部として、当事者になってしまったときにその判断は出来なくなってしまうのかもしれない。かくいう筆者を含めた日本人もこの「システム」の一部であることを、本作は明確に語っている!

 映画の冒頭で描かれる風景はどこか「たんに田舎の風景」を思わせなくも無いものだが、これが物語り後半のキーポイントとなるシチュエーションであることが明かされる。ドキュメンタリーの体を為しながら、映画として実に巧妙な作り方が為されている本作は見るものを知らず知らすのうちに作品世界へと観客を放り込むのだ。幾度と無く挿入される飛行場の光景は、クライマックスへ向けてその意味を観客の前に突きつける。

 ナイルパーチの話を初めとして本作で繰り返し描かれる「強いものが勝つ」というひとつの現実の積み重ねが作り出した世界がどのようなものか。自らの生きる世界の縮図を、我々はこの作品を通して垣間見ることが出来る。今時分のいるこの世界を、我々はどうしたいのか、どうしようとしているのか。
 思いをはせるきっかけを得た事に感謝するべきだと思った。

                        1. +

ダーウィンの悪夢
監督: フーベルト・ザウパー
評価: ★★★